モイスディーラー、モイスユーザーの皆様へ
(長文失礼いたします)
4月におきた九州での悲しい事故以来、パラグライダーも含め
今年の5月も過去に記憶がないくらい事故が多かった事は本当に
残念でなりません。私たちといたしましても全ての事故の原因を
究明して全力を挙げて再発を防止しなければならないのは言うまでもありません。
しかしながら1昨日アメリカでもエアショウの最中にデモンストレーションを行っていた
アメリカの一流パイロットBo Hagewoodの機体が破壊し、
パラシュートがハーネスに正しく装着されていたなかったこともあり
大変な重症を負ったというニュースが入ってきました。
詳細についてはOZレポートにアップデートされると思いますので、
わかり次第いろいろな角度で検討されることと思います。
経験豊富な皆さんにあえてお知らせするまでもありませんが、ここで一刻も早く
運用限界を超えるフライトを行わない事と、VGの正しい使用を「周知徹底」させる
必要を痛切に感じましたので、以下の通りモイス社としての見解を大変僭越ではありますが
取り急ぎご連絡させていただきます。
モイスディーラーの皆様には後ほどディラーニュースを郵送させていただく予定です。
「機体の運用限界と起こりうるハイスピードタンブルについて」
「VGの適切な使用方法」
以前の機体に比べモイス社に限らず現在世界の各社から発売されている最高峰の
高性能ハンググライダー全てのVGフルオンでの最高速度ははるかに早くなっていますが、
エアロバティックには全く適しません。なぜならば最高速度が格段に速くなったことにおいて「ハイスピードタンブル」
と言う危険な落とし穴があるからです。 このことはVGの正しい使用方法とも関係しています。
運用限界を守るためにも正確なスピードメーターを使用しその範囲内で楽しく安全にフライトを行ってください。
以下は私とモイスファクトリーと表題の件でのやり取りの中で皆さんの安全上非常に参考になると思う
部分ですのでご一読下さい。
「理論的には効率がよく高速で抵抗の少ない現代の競技機の、
翼型だけを考えるとハイスピードで完全にピッチがネガティブに
入るという挙動は起きにくいそうです。
しかし実際には、ある程度のスピード(約100〜110km/h以上)を超えるとパイロットの
空気抵抗が機体のポジティブなピッチのモーメント(ニュートラルに戻ろうとする)を超えます。
すると機体にかかる力はタック(前転)する方向での力が勝ります。
パイロットにとっては、バープレッシャーが無くなり、ベースバーは足元の方へと
持って行かれます。
これが過去の機体にはなかった「ハイスピードタンブル」の始まりでありその正体です。
従来のテールスライド&スティープダイブからのタンブルとはアタックアングルが異なります。
ここであわててベースバーを元に引き寄せようとすると、機体はまた
ポジティブなピッチのモーメントを取り戻す状態まで突然減速します。
アタックアングルが下がっていた分だけ、このニュートラルに戻ろうとする
動きは強いわけですが、これはベースバーを手前に戻そうとして
引き寄せる途中に起きるわけで、
気付いた時には既に凄い勢いでノーズが上がろうとし、
さらにパイロットの動作も(つまりベースバーを前方向へ押し戻すこと)
それを助けているわけです。
これら全ての動作は一瞬のうちに起きます。
この瞬間に多大な正荷重が機体にかかります。この多大な荷重が構造破損の原因となります。
もちろん場合によってはこの前段階での負の荷重による破損も当然起こり得ます。
何度か経験すれば、ネガティブな挙動を早めに察知しこういう高速域からの減速動作に
気をつけることによって切りぬけることができます。
しかし慣れていない、或いは始めて経験する場合は
かなり危ない目に遭う可能性が高いと思われます。
皆さんに是非ご理解いただきたいのはいかなる場合においても
VGオフが最も安全な状態である、ということでしょう。
原因不明な、もしくは激しいタービュラントに遭遇した時は
常にVGをリリースするというのが安全確保としては最も賢い方法です。
翼型としても安定性が高いし、VGオフでは大したスピードには達しません。
どの機体も70〜80km/hがいいところでしょう。
VGオンでの性能が向上したことばかりに着目されますが、VGオフの状態での
安定性、安全性も以前よりはるかに向上しているのです。」
以上をご参考にしていただいた上で、周囲のパイロットの皆さんとも共通の安全上の認識を
更に高め、悲しい事故が二度とおきないよう、そしてこの素晴らしいスポーツをより楽しみ発展させて行く
ためにも力をあわせていくことができればと願っています。
5月20日
モイスデルタグライダーズ
株)ウインドスポーツ
郷田 徹
*モイスのマニュアルに記載されている運用限界を下記に記載しますので
御手数ですが今一度ご一読下さい。
運用限界
Moyes LITESPEED Sは洗練された高性能ハンググライダーの傑作です。正しくメンテナンスがなされていれば、安全で楽しいソアリングを何年も提供することでしょう。しかしながら、フライトの全ての面において正しい配慮をおこたらない事が重要ですし、とりわけ危険なコンディションで飛んだり、グライダーの運用限界を超えるような方法で飛ぶことは危険性を増すということを理解することが必要です。
・飛行中の動作は、ピッチの角度が水平線に対して上下30°、バンク角が60°をそ
れぞれ超えない範囲で、エアロバティックをしないように制限してください。
・LITESPEED Sはフットランチによるソアリング飛行のために設計されています。2
人以上のパイロットが一緒にフライトしたり、後ろ向きに飛んだり、さかさまに飛ん
だりはしないで下さい。
・推奨されるパイロットの技術レベルは、上級者(Hang4)です。
・LITESPEED Sでの補助動力飛行は行わないで下さい。
・LITESPEED Sで、運用限界のプラカードに記載されているVNE、VEを超える飛
行は行わないで下さい。
・VNE(超過禁止速度) 53mph / 84.8k/m
・VA(荒れたコンディションでのコントロールができる最高速度)
46mph / 73.6k/m
・失速速度(パイロットが上限体重の場合) 25mph / 41.6k/m 以下
・最高速度(パイロットが下限体重の場合) 65mph / 80k/m 以上
LITESPEED Sはスピンに入りにくく、またスピンに入った場合でもベースバーにかけている力をゆるめれば素早く回復します。ターン中の失速からの回復では、極端な高度ロスや、ノーズが下がった時の極端な挙動の変化がありません。スピンへの入りかけの状態でも、アタックアングルが通常飛行のアングルへと下げられれば、半回転で回復します。
Moyes LITESPEED SはUSHGME及びDHVによって耐空証明が得られるようテストされています。これらの基準は、以下の限界負荷テストをパスしなければなりません。
・アタックアングル最大の角度で65mph/104kphのスピードに耐える
・アタックアングルがネガティブ30°の角度で46mph/73.6kphのスピー
ドに耐える
・同じくネガティブ150°の角度で32mph/51.2kphのスピードに耐える
・20/32、37/59、54/86 mph/kphでのそれぞれのスピードにお
いて、幅広いアタックアングルの変化を通じてグライダーがポジティブなピッチ安定
性を持っているかどうかを見るテスト
LITESPEED Sは、いとも簡単にVAとVNEのスピードを超えることが可能です。正確なスピードメーターを使用し、これらのスピードと通常のスピードでのベースバーの位置にいち早く慣れることをお奨めします。